未来スクールは2026年2月、企業や団体による教育支援の取り組みを奨励・普及するキャリア教育アワードのコーディネート部門で最優秀賞を受賞しました。未来スクールの始まりは12年前。和歌山市立伏虎中学校(現、伏虎義務教育学校)を借りて1日だけのイベント形式でスタートした日にさかのぼります。
当時、学校長として未来スクールを開催する決断をされた現和歌山市教育委員会 委員 教育長職務代行者の藤本禎男さんと、当時から職業先生として未来スクールに参加し、また寄付でも未来スクールを支え続けている三木理研工業株式会社代表取締役の三木保人さんをお招きして、受賞のご報告と今後の展望について対談を行いました。その対談の後編をお届けします。
(前編はこちら)
未来スクールが「最優秀賞」を受賞したポイント
山本:未来スクールは初回の開催から12年が経ちました。このように継続してキャリア教育を実施していることも評価されたポイントでした。活動が広まっていくポイントのひとつに、やはり未来スクールを経験された先生方が異動先の学校で『素晴らしいプログラムがある』と広めてくださっていることが大きいです。
藤本:学校の教職員が地域の企業と接点をつくるのは難しいのですが未来スクールは学校に企業さんが来てくださる仕組みです。こうした接点が持てたことは良かったと思います。それがあったからこそ、先生方も異動先でその感動を伝えて広まっているのだと思います。
山本:生徒だけではなく、先生も夢中になって取り組んでくださっているおかげで、2026年度は和歌山市内の過半数となる中学校10校での開催を予定しています。
藤本:和歌山大学では学生が企業とのタイアップなど、アントレプレナーシップの勉強を取り入れています。若い先生たちは学生時代からこうした取り組みの大切さを知っているので、すっと取り入れられるかなと思います。
山本:確かに若手の先生は「こういう教育を実践したかったです」と言ってくださる先生もいらっしゃいます。その一方で、職業先生や寄付でご協力してくださる企業さんも増えてきました。企業間でも熱い広がりが見られるのはなぜでしょう?
三木:未来スクールのビジョンが明確だからでしょう。また各企業も利益追求だけではなくそれぞれビジョンを掲げています。そこがお互い共感しあうのではないでしょうか。また、参加する企業は、企業の認知度を上げるというよりは、職業そのものについて知ってもらうチャンスだと捉えていると思います。

山本:なるほど。単なるPRではなく、「未来の担い手を育てる」という純粋な想いで参加されているのですね。そうして多様な職業を知る機会が増えることは、子どもたちにとっても選択肢が広がる大きなきっかけになりますね。
三木:はい。例えば現場職の仕事の話やそこに込められた想いを聞く機会はあまり多くないですよね。インターネット上では見たい部分だけを切り取ったり、また我々企業側もうまく情報発信ができていないという問題もあります。正しく職業を理解して欲しいと感じている企業にとっては、仕事の面白さを伝えるありがたい機会だと思います。
山本:この間、中学校の先生から「進路調査を行った際に、化学に興味を持ったから高専に行きたいと具体的に目標を書く生徒が出てきました。これは絶対に未来スクールのおかげです」と伺いました。
三木:高校進学時に高専(高等専門学校)や工業高校に行くという進路が用意されていて、実際には実践的な技術系にダイレクトに進みたい子もいるのに、その後のキャリア教育が浸透していないから偏差値を軸にして進路を選ぶ生徒も多い。そうではない進路を引き出すキャリア教育は大事です。
これからの和歌山、そしてこれからのキャリア教育に必要なこと

山本:未来スクールが評価された点の1つに、地域の働く大人が職業先生として教壇に立つという点があります。私たちの取り組みは、若者の県外流出が課題となっている他府県でも同じような需要があるのではないかと審査員から評価をいただきました。
藤本:私が子どもの時代は和歌山市は40万人都市になると言われていましたが、現在の人口は36万人を切りました。市長が様々な大学や教育施設を誘致しましたが東京や大阪に流出する若者も多いです。だからこそ、和歌山の良さを教えることが大切ですね。
三木:企業としては人口増加を想定した経営モデルをしていてはいけない時代です。一方で和歌山の地場産業や一次産業、またそれに従事する企業を個人の意識の中で持つことができたら、そのまま地元で働いたりUターンしたいと思う子も出てくるでしょう。故郷は誰の心の中でも大きなウェイトを占めていますから。
山本:未来スクール受講後の生徒のアンケートにも「都会とは異なるけれど、働きがいや温かさに魅力を感じた」「和歌山で働く人たちのことを誇りに思った」「和歌山をどこよりも有名にしたい」と言った声が上がってきています。大好きな和歌山のために大人がワクワクしながら挑戦する姿を見せること。そして「君たちも一緒に未来をつくる仲間なんだ」と伝えていくことこそが、本当のキャリア教育なのかもしれませんね。
藤本:失敗しても諦めない大人の姿を見せる。これはまさに教科書には載っていない学びであり、教育ですね。
公教育の枠組みに地域の大人が参加する未来スクールの意味
山本:公教育にとって、未来スクールとはどういう役割を秘めていますか?
藤本:変化が激しい世の中で中にはチャレンジすることを諦めてしまう子どもも多いです。こういう時に、困難にも立ち向かう企業さんの葛藤や、それを乗り越える姿を教えていただけることは大きい。これこそ生きた教育だと思います。職業先生その人から伝わってくる熱量、「ああいう人になりたい」とか「ああいう企業で働きたい」というのを中学校で経験して、それがまた高等学校に続いていくと思いますね。

山本:未来スクールの運営は企業様のご寄付で成り立っています。そこには地域への想いや繋がりの深さがあるように感じますが、いかがでしょうか?
三木:和歌山は人口減少や若者の流出において、課題先進地域とも言われてきました。企業側としても共通認識として危機感を持っていることが大きいと思います。
山本:三木理研様にも初年度から継続してご寄付をいただいていますが、続けてくださる理由は何でしょう?
三木:会社を経営する意義は、企業が地域に存在し、税金を納め、そこで人が働き、暮らしが生まれることです。自分たちが生活する場所は、より良い街であってほしいと思います。そこで自分が暮らす地域に対してもっと街を良くするためにお金を使うことは企業活動の目的のひとつだと考えています。利益を出すこと自体がゴールではなく、その利益を使って、何を実現するのか。未来スクールは、その目的の一つとして十分に価値のある取り組みだと思っています。
山本:ありがとうございます。この仕組みの中で学校と企業を架け橋として私がキャリア教育コーディネートをしてきましたが、その役割に対して何か思うことはありますか?
藤本:ここまで続けてこれたのは、やはり何と言っても山本さんの熱意です。その熱意をみんな感じています。
三木:企業もやらなければと思っていることを未来スクールが率先してやってくれていると思います。このキャリア教育コーディネーターが各地で増えて、それが職業となり、こういうことを仕事にしたいと思うフォロワーが出てくるのが次のステップですね。
山本:ありがとうございます。これがゴールではなく次に行くフェーズだと思います。実際に他地域から未来スクールのノウハウを教えて欲しいとも言われています。和歌山の10-20年後を見た時にこの取り組みが響いてくると思うので、どうやってすべての子どもたちに届けていくかが今の課題です。
藤本:まずは開催校を一校ずつでも増やして、和歌山市内全中学校に届けて欲しいなと思います。1年に1人でも2人でもいいから参加してもらう。大変だと思いますが、その地道な継続が必要ですね。
三木:開催校が増えていますから、それに応えられる体制づくりも行わないといけませんね。
山本:ありがとうございます。これからも一歩一歩、頑張って広めてまいります。