未来スクールは2026年2月、企業や団体による教育支援の取り組みを奨励・普及するキャリア教育アワードのコーディネート部門で最優秀賞を受賞しました。未来スクールの始まりは12年前。和歌山市立伏虎中学校(現、伏虎義務教育学校)を借りて1日だけのイベント形式でスタートした日にさかのぼります。
当時、学校長として未来スクールを開催する決断をされた現和歌山市教育委員会 委員 教育長職務代行者の藤本禎男さんと、当時から職業先生として未来スクールに参加し、また寄付でも未来スクールを支え続けている三木理研工業株式会社代表取締役の三木保人さんをお招きして、受賞のご報告と今後の展望について対談を行いました。その様子を前後編でお届けします。
今や未来スクールは和歌山市内の約半数の学校で開催するまでに成長
山本:この度未来スクールは優れたキャリア教育の取組を行う企業・団体等を表彰するキャリア教育アワードのコーディネート部門で最優秀賞を受賞しました。評価されたのは以下の3つのポイントです。
・和歌山県内の中学生を対象に、約70社の「未来スクール応援団企業」と公立中学校が協働する探究型キャリア教育プログラムを11年間継続して実施してきた点。
・育成を目指す資質・能力を明確に設定し、アウトカム評価を行っている点。
・地元で働く社会人を「職業先生」として紹介し、地域の実情に即したキャリア観を伝えている点。
特に3つめは「地域課題に根差した意義深い取組み」と評価されました。今日は未来スクールの黎明期を知る藤本先生と三木さんと共に、当時を振り返りながらこれからの未来スクールについて一緒に考えていただきたいと思います。
まず、藤本先生に質問です。未来スクールは最初、1日限りのイベント形式で行いました。先生には開催日が日曜日にもかかわらず、学校を貸してくださるご決断をいただきました。また当日は先生自らチャイム係を担当してくださいました。なぜ、未来スクールにそこまでお力添えをしてくださったのでしょう。
藤本:初めて未来スクールの取り組みについて説明を伺った時に、とてつもない熱意を感じたことが大きいです。山本さんがせっかく学校の扉を叩いてくださったのだから、ぜひ使っていただこうと即決しました。
元々、学校は地域に根差したものでなくてはいけない、学校と地域に壁があってはいけないと思っています。今は社会の課題を見つけ、解決する力をつけるアントレプレナー教育が注目されていますが、未来スクールの取り組みはまさにその先駆けだと感じました。その後も未来スクールの3年目の開催時に「職業先生」として学校の先生の仕事についても授業をさせてもらいました。

山本:未来スクールをそんな風に見てくださっていて、改めてありがとうございます。三木さんは企業の経営者という立場ですが、未来スクールの初回から今日までどのようなモチベーションでご協力くださっているのでしょう。
三木:それまでのキャリア教育に関しては、自らの企業のPRや、自社への就職につながることを想定するものだというイメージがありました。しかし未来スクールは地域に住む大人の一人として職業そのものの魅力を中学生に伝えることができる。その点が素晴らしいと思いました。
現代は私たちの子どもの頃と比べると、色んな職業が見えにくくなっていると思います。弊社は化学メーカーです。昔は製造業でもそこで何をつくっているかが何となく伝わってきました。今はエンジニアでもメーカー勤務でも、あらゆる仕事が子どもたちにわかりにくくなっていると思います。

山本:地域に住む大人として地域の子どもを育てるという感覚だったんですね。まさに未来スクールは親でも先生でもない大人=「斜めの関係」が10代の子どもたちにとって重要だとお伝えさせてもらいました。こういう大人になりたいという気持ちが意欲や将来を描く力になります。
三木:「斜めの関係」についても、とても共感しました。自分自身や子ども、そして弊社の従業員も和歌山というこの地域に住んでいて、「斜めの関係」という人の繋がりを感じていますから。
変化の激しい時代を生き抜く力を育む授業
山本:三木さんは職業先生として授業をしてくださっていますが、中学生と接する中で子どもたちの目が変わる瞬間はありましたか?
三木:未来スクールはあらかじめ生徒に希望をヒアリングして、希望に沿った授業を受ける仕組みになっていますよね。私はいつも化学の実験を行うのですが、ある生徒がイニシアチブをとって実験をしてくれたことがありました。後で先生から「普段の授業の様子とは全く違って、非常に生き生きとしていた」と聞きました。周囲の友達も、その子が普段見せない一面を見せたようで「実験が好きやったんやな」と驚いていました。その子の中で眠っていた一面が見られるとすごく嬉しいですね。
研究者や科学者は、例えば野球選手やサッカー選手と違って、どんな職業なのかビジョンやイメージを持ちにくい職業です。そこで実際の研究者が職業先生となり、直接話をして、「こういう生き方があるんだよ」と伝えることができる。中学生も明確なイメージを持つことができるようになる。こんな機会はなかなかありません。
山本:ありがとうございます。未来スクールが大切にしているのは、職種や仕事内容を教えるだけではなく、「和歌山で働く大人の生き方や想い」に触れてもらうことです。教室にやってくる「職業先生」たちが、自分の仕事に誇りを持ち、キラキラした目で語る姿。それを見た子どもたちの目が、パッと輝く瞬間があります。「和歌山にも、こんなにカッコいい大人がいるんだ」。その気づきが、子どもたちの心に「未来への希望」という種をまきます。
伏虎中学校さんにはその後、「イベントではなく、授業の一環として未来スクールを実施してください」というご依頼をいただきましたが、未来スクールのどのような点を公教育のプログラムの1つとして必要だと感じていただきましたか。

藤本:現代は、非常に変化が激しい社会になってきています。例えば、私が生まれた当初、家には電話もテレビもありませんでした。そこからテレビが普及して、そのテレビも目覚ましく進化しました。しかし今日ではテレビが以前ほどは売れなくなってるという時代になっています。このように変遷が激しい社会の中で、変化に負けない子どもたちを育成していかなければなりません。こうした時に地域を知ることが大事です。
和歌山を離れる子どもたちもいますが、地元には素晴らしい企業がたくさんあります。私たちはまだまだこうした企業と出会えていない。そこを未来スクールはつないでくれます。
また学びはお金に変え難い希望です。例えばわからなかった数学がわかるようになる。これも希望です。私は学びを通して、子どもたちに喜びと希望を与えてあげたいと思っています。未来スクールの職業先生は、みなさん同じような想いを持っていると思います。生徒に授業をする前に、何度も練習をして本番を迎える。この姿を目の当たりにしたら感動します。
昨年、未来スクールは和歌山市内にある計18の中学校のうち、10校で開催されたとお聞きしています。こうして広まる理由は、教員もこの熱意を感じてるからだと思います。
(後編に続く)