セイカ株式会社は1955年の創業以来、芳香族ジアミン類の製造で世界的シェアを誇る化学メーカーです。芳香族ジアミンとは自動車や航空機、電子機器などをはじめ、生活に欠かせないあらゆる部品の原料となる化学物質のことです。今日は未来スクールで職業先生として協力してくださっている研究部の谷口寿英さんにお話をお伺いしました。
未来スクールで職業先生をすることになった経緯を教えてください。
私は2024年から参加しています。部長から「未来スクールで職業先生派遣の話がある」と言われたことがきっかけです。私はもともと教師に憧れていたこともあり、これは和歌山の子どもたちに有機化学のおもしろさを伝えるチャンスだと思い、喜んで引き受けました。
職業先生として授業をする準備は大変でしたか?
私は日頃から研究発表する機会も多く、プレゼンは得意だと思っていまし た。しかし、実際には授業で使う資料づくりで何度も未来スクールに指導していただきました。中学生向けに言葉を選んでいたつもりでも、もっと言葉を簡単にするように言われたり、中学生が授業を聞きながらメモを取れるように間をとることを教わったりとアドバイスをいただきました。トータルで7、8回ほど修正を加えたと思います。毎回未来スクールの山本代表が真剣に向き合ってくださったので、その熱意と本気度を感じて、私もさらに本気で取り組もうと思いました。

職業先生の授業ではどのような授業を行なっていますか。
当社製品はほとんどが白い固体(粉)になります。そこで、製品は使えませんが、食塩や重曹など、5種類の白い粉を用意して、実験とディスカッションで何がどの粉かを当てる体験授業をしています。その際に、実験をする係、結果をまとめる係、発表する係など、それぞれの役割を決めてもらいます。意見が分かれた時は多数決ではなく、ディスカッションをしてもらいます。私たち研究者も日頃よくディスカッションをします。色々な意見をぶつけ合うことで、1人では考えもつかなかったハイブリッドの答えが出てきます。実際にそれが一番正解に近いということがよくあるのです。こうした化学のおもしろさを体験してもらいたいと思っています。

授業でどんなことを工夫していますか?
まず自己紹介をするのですが、最初の10秒から1分間で生徒の緊張をほぐし、心を掴むために、毎回アドリブを入れながら笑顔にできるよう心掛けています。なぜなら多くの生徒が「研究者って難しい仕事」と思っているからです。そのイメージを壊して「みんなと同じ目線にいる」ということ が伝わるようにしています。また出会う皆さんとのご縁も大切にしたいので、授業中に必ず1人2回は目を合わせるように心掛けています。
職業先生をするメリットは何ですか?
私が専門にする有機化学は、応用次第で色々なものをつくり出す無限の可能性があります。つまり0から1を生み出す力があるのです。私も0から1を生み出すような研究と開発に日々取り組んでいるのですが、以前に大変苦労した末に成功した研究がありました。当時は上司からも「そろそろ打ち切って別のテーマを研究してください」と言われていました。でも、私は諦めませんでした。上司から指示された仕事と並行してその実験を続けていたある日、突然実験が成功しました。
その体験を授業で話したら「その時どんな感じでしたか?」と純粋な目で質問してくれた生徒さんがいました。私は言葉ではうまく伝えられなかったので「そうだね…、こんな感じだったよ」と静かにガッツポーズをしました。それが言葉以上に生徒さんの心に伝わったようで、とても嬉しかったですね。何と言っても中学生は純粋で、まっすぐです。質問内容もストレート。他にも「仕事で何が一番おもしろいですか?」という本質的な質問もありました。ひと言で説明するのが難しく、質問をもらってからもずっと考えながら仕事をしています。職業先生をすると、気づきがいっぱいある。それが最大のメリ ットではないでしょうか。

未来スクールに協力してくれる学校様には、どのようなメリットがあると言えますか?
学校の先生にとっては、なかなか見ることができない生徒の素の顔が未来スクールでは見ることができるのではないでしょうか。というのも、職業先生は毎日会う存在ではありませんよね。だからこそ生徒も素の自分を出しやすいのではないかと思います。体験授業の様子を見ていた先生が「あんな学生の姿や表情を初めて見ました」とよくおっしゃいます。
未来スクールに期待すること、こうなって欲しいという要望がございましたらお聞かせください。
私も就職してから知ったのですが、和歌山は日本における有機化学発祥の地です。実は皆さんの暮らしの中でお馴染みの製品や化学薬品などに和歌山発祥のものがたくさんあります。こうした和歌山の素晴らしさをアピールしたいですし、将来の和歌山を担う子どもたちに色々な職業の選択肢を与えられる取り組みがもっと広がればいいなと思います。そのためにも協力できることがあれば積極的に臨みたいと思っています。スケールが大きいですが、未来スクールが全国的に広がったらいいなと思いますし、自分が中学生の時にこのような授業があったらよかったなと思います。
最後に、今の中学生に伝えたいメッセージをお願いします。
私は今でこそ化学を生業にしていますが、高校時代は化学に興味はあったものの得意だったわけではありません。大学ではエンジョイしすぎて、有機化学の研究室しか空きがなく、なんとなくその研究室に入りました。 しかし、そこで出会った教授が私の人生を大きく変えてくれました。その教授に有機化学を徹底的に叩き込んでいただいたおかげで、大学院でも「有機化学だけは誰にも負けない」という自信を持って修士課程を終えることができました。さらに仕事で新しい発見や成功を体験できたのも、その教授の「常に考えろ!」「常に『なぜ?』と疑問を抱け」「諦めるな!」と愛のこもったご指導があったからです。
成功とは、成功するまで諦めないことです。その教授との出会いのおかげで研究者としての幸せな自分がいます。 今回の授業で研究者に興味を持ってくれた生徒さんも、諦めないこと、当たり前のことに「なぜ?」と思える習慣を身につけてもらえたら、素敵な研究者に近づけるのではないでしょうか。 そしてなにより、私は未来スクールで出会う皆さんの人生が幸せであってほしいと願っています。人との出会いを大切にすることが幸せに繋がると強く思っています。この先にあるたくさんの出会いを大切に、これからの生活を送ってもらえたら嬉しいです。