2026年2月和歌山市立紀之川中学校で開かれた過去最大規模の未来スクール。その様子は本ウェブサイトのストーリーズ記事でもご紹介しました。それから約1ヶ月後の3月13日、同中学校で事後学習発表会が開かれました。生徒たちはそれぞれの授業で学んだことと、また事後学習で調べたことをプレゼンを作成し、代表者19名が発表しました。
今日は紀之川中学校で未来スクールの導入を提案し、他の先生らと連携して未来スクールの開催を継続してきた宮﨑潤先生にお話を伺いました。
未来スクールとの出会いから導入までの経緯を教えてください。
宮﨑:前任の和歌山市立貴志中学校に勤務していた時に未来スクールさんに来ていただくことになりました。当時は実施した学年の担任ではなかったのですが、最初のオリエンテーションで、職業先生が電動バイクに乗って登場するなどの様子を拝見してすごくインパクトがあるなと驚きました。生徒たちも楽しそうに未来スクールのことを話していたことが印象的でした。
紀之川中学校に異動になり、2年生を受け持つ中でどのようなキャリア教育を実施するかを検討していた際に、未来スクールの存在がピンときたのですぐに連絡を差し上げました。
しかしその時はタイミングが合わず断念しましたが、翌年未来スクールさんの方から実施の打診をいただきました。私は3年生の担任でしたが、2年生の担当へ強く勧め、学校として未来スクールの導入が決定しました。
そこから想いは引き継がれ継続的な取り組みとなりました。そして今年度3年越しにようやく私自身が2年生の担任として、念願の実施を叶えることができました。
今年から紀之川中学校では1年生が未来スクールを受講するように計画しています。そのため、今年は初めて未来スクールを受講する2年生と1年生が合同で行うことになりました。開催に当たってはキャリア教育担当や総合学習担当の教員らとどうすれば生徒に最高の体験を届けられるかを話し合って、最終的には校長に報告し、未来スクールさんに改めて2学年で開催したい旨をご連絡させていただきました。
未来スクールの特徴・良さをひと言で言うと?
宮﨑:やはり働いている職業先生の生の声が聞けること。また体験を通して五感も使って授業を受けられることが生徒の好奇心を引き出すことではないでしょうか。
キャリア教育は、総合の学習指導要領に則って何を何時間行うのかは学校現場に委ねられています。近年は2年生で職場体験に行くのが主流です。そのために1年生で職業調べを行ったり、自分にあった職業を性格診断するなどを行います。しかしインターネット上や本などで調べる知識と、職業先生の生の声を聞くのとでは、生徒の反応や学びの深さが違います。

Beeの授業を受けた生徒の発表概要
株式会社BEEは、Webサイトやホームページ作成、ブランディング支援、システム開発などを手がけている会社です。授業では、AIによるデザイン制作が増えていることが企業の課題と聞きました。私が考えた解決策は1、AIの技術を生かしつつ、AIができない細かい仕事を人間が行う。2、SNSを見るひとが増えているので、短い動画などを活用して、会社のホームページなどに繋がるようにすることを考えました。体験授業では紀之川中学校のホームページ制作を体験してウェブサイトをつくる難しさや楽しさがわかりました。どうすれば多くの人に興味を持ってもらえるものを作るか考えて工夫しました。またデザイン制作について、以前よりももっと興味が湧きました。
事前にどのような準備をしましたか?導入に際して大変だったことはありましたか?
宮﨑:大変だったことは特に思い当たりません。未来スクールさんが作成してくださっているオリジナルの教材があるので、事前学習から当日、事後学習までその教材を使用しました。特に1年生はまだ将来への興味・関心が薄い。そこでまず「自分を知る」ということをテーマに、自分の性格や好きなことなどを振り返る時間を設けます。未来スクールのテキストにはそこもきちんと含まれているので、そのまま使わせてもらいました。
また教材の中には、職種や企業について調べ、質問を考えることも事前学習に盛り込まれています。生徒たちは、まず自分たちで企業について調べ、少しずつ和歌山にどんな企業や職種があるのかを知ることで、さらに好奇心が高まっていくようでした。
教員側としても教材を準備する負担が減るし、プリントではなく冊子形態のテキストなので、友達同士で共有しやすいですし、未来スクールのテキストをそのまま総合学習のファイルに挟んで記録として残していけるのも良い点です。

妙中パイル織物株式会社の授業を受けた生徒の発表概要
パイル織物とは生地の表面にパイル(毛房)がある織物のことで、タオルや新幹線の座席のシートなどに使われています。授業では実際のパイル織物を見て触れ、また織機の糸替えの時などに行う「はた結び」を体験しました。とても難しく苦戦しました。妙中パイルでは技術の習得に時間がかかり、また製造業に関心のある若い人が減っているため、人手不足が課題だと聞きました。解決策として織物の製作の様子をSNSで伝えたり、基本的な技術を学ぶオンライン講座をしてはどうかと考えました。誰にでも簡単にできる技術ではないからこそ価値がある仕事なので、昔から伝わる技術をこれからも受け継いで欲しいと思いました。
事後学習ではどのようなことを工夫しましたか?
宮﨑:事後学習は自分が話を聞いた職業先生の企業や職種についてさらに調べて、授業で体験したり学んだことをプレゼン資料にまとめました。プレゼンは一人ひとりが作成し、完成後に発表し合いました。全部で2.5コマぐらいしかプレゼン作成の時間が取れませんでしたが、積極的な生徒は家のPCを使ってインターネットで検索を深めて資料づくりを行っていました。
その後、各職業先生の授業ごとに最も良いプレゼンを生徒たちが選びました。互いの発表を聞き合ってさらにプレゼンをブラッシュアップし、最終的には体育館でその成果を発表しました。授業は1人の生徒につき2人の職業先生の授業を受けられますが、たくさんの企業の方にお越しいただくので、どうにかして全ての企業の方のお話が共有できる機会を設けようと当初から決めていました。私自身も知らなかった企業さんのことや、和歌山の歴史と産業を知るきっかけにもなりました。

生徒さんたちにはどのような変化がみられましたか?
宮﨑:2年生についてですが、1つの職種に対して、その職種に就くにはやはりしっかりと勉強しないといけないんだな、といったリアルなイメージが再構築されたようです。これまで進路調査で「高校進学」としか書いていなかった生徒たちが、「美容の仕事や手に職がつく仕事がしたい」とか「工業高校に行きたい」とか「高専で化学を学びたい」など自らの言葉で具体的な職種を記し始めています。ゼロだった場所から、確かな一歩が踏み出される。3年生に上がる上でいいスタートが切れる生徒が増えたと思います。
1年生は授業が終わった後に「楽しかった」と言う素直な反応がすぐ現れていました。今後、体験した職業になるためにはどんな勉強をしていく必要があるかといったこともまた一緒に考えていけたらと思います。
導入を検討している中学校に、メッセージをお願いします。
宮﨑:生徒たちに「目標を持って頑張って欲しい」「こういうことを理解してほしい」などと思っても、その目標を示すことが難しかったり、こちらから一方的に伝えてもなかなか伝わらない。でも、未来スクールの「職業先生」と出会い、自分で調べ、考えることで興味を持つようになり、それが将来の目標に変わっていきます。その段階的な変化は、私たち教員にとっても大きな学びとなりました。
また和歌山に根差した企業の方が「職業先生」として教室に来てくださるのも大きな魅力です。地元にこんな素晴らしい企業や地場産業があったのかというふるさと学習のような側面もあり、教員にも発見があります。非常に幅広く学べるキャリア教育だと思います。
(宮﨑先生の言葉ここまで)

この日、生徒たちの手書きの感想が集まったメッセージカードが、各職業先生へ届けられました。
そして終了後、1年生のある生徒が山本代表のもとへ駆け寄り、「ネットで調べてもわからない働く人の想いを知ることができた。和歌山全部の中学校でやってください!』と興奮気味に伝えていました。その姿こそが、未来スクールの活動の意義を何よりも雄弁に物語っていました。