未来スクールは、地域の企業と子どもたちをつなぐ場
未来スクールに関わられたきっかけを教えてください。
商工会議所のメンバーから伝え聞きました。私たちの店があるのは、地元のお客様が通ってくださるからこそ。少しでも地域の方のお役に立てることがあればという気持ちで、初めは職業先生として関わらせてもらうことにしました。当初は「企業説明をするのかな」と想像していましたが、実際に授業の準備を進めると「働くとはどういうことか」をかなり深く伝える授業でびっくりしました。それで「これを運営する事務局は手弁当でする活動じゃない」と思ったんです。何事も続けないと消えてしまいますから、継続するための費用をどう捻出していくのかということで、寄付による協賛を募った方がいいのではと提案しました。
企業が寄付をすることで教育プログラムを届ける事例は少ないように思います。
私が高校、大学時代を過ごしたアメリカでは地元の企業が学校などに寄付をするのが当たり前の社会でした。地方で誰かが起業したら、地元の方はすごく喜んでくれるんですよね。だから企業も地元に還元して、みんなで地元を盛り上げようという文化があります。未来スクールがなぜこれほど注目を集めるのかを考えると、まだ日本では企業と地域の子どもたちの距離が少し遠いのかなと思います。
未来スクールが地元の子どもたちと地元の企業をつなぐ役割も担っているのですね。
地元には私たちのような企業があって、日々私たちがどんなことを考えながら働いているのかを伝えられる良い場だと思います。子どもたちは2名まで職業先生の授業を受けられるんです。「あの先生とこの先生は、働くということについて意見が違う」ということが出てきますよね。このように、いろんな形の正解がある。色々な職種があって、そこには色々な人生があって、それらが多様な価値観の上に成り立っているということを中学生のうちから感じられる場がある。これが子どもたちの自己肯定感を上げていくことにつながっていくんじゃないかなと思います。
未来スクールのどのような点に共感されていますか。
妥協しないところですね。職業先生の授業プログラムをすごく丁寧に事務局がチェックしてくれるんです。授業練習会の模擬授業授業でも職業先生同士がお互い率直に意見を言います。結果的に骨の太いプログラムができていると思います。こちらが一生懸命やれば、授業を受ける聞く方も自然と一生懸命になる。だから本質が伝わる授業になっているのでしょうね。
今の子どもたちに必要なことは何でしょう。
現代の子どもたちはAIやロボット、SNSが発達しているから、芯がぶれやすい時代に生きていると思います。そんな時にどんな仕事も最終出口は「人に喜んでいただくこと」を思い出して欲しいと思います。大事なのは「人」なんです。従業員も人であれば、お客様も人。ですから、「挨拶は自分から進んでやりましょう」とか「ありがとう」や「ごめんなさい」は携帯のメッセージではなくて、目を見て伝えるといったシンプルなことが改めて必要ではないでしょうか。
未来スクールが継続することで、どのように社会は変化するでしょうか。
今は、地球の裏側の情報も瞬時に入ってくる時代です。在宅ワークも増えているので、都会への憧れも減ってきている時代かと思います。東京に行かなければできない、ということも以前よりは少なくなりました。私の会社もどこに出しても恥ずかしくない企業だと思って日々働いているんです。こうした働き方を未来スクールで伝えることで、フラットに自分の住む地域を見られるような人が増えてほしいと思っています。
「和歌山には何もない」と言う人もいますが、東京や大阪に引けを取らない独自の魅力がありますよね。
僕なんて出張に出たら「早く和歌山に帰りたい」と思いますよ。24時間運営している国際空港までリムジンバスで30分ですし、特急列車に1時間乗れば大阪市内まで着くとても交通の便がいい場所。他の地域を見てみると、満員電車で1時間も2時間も通勤するなんてザラです。それでいて自然にも近くて、海にも山にも30分で行ける。和歌山には本当にいろんないいものがありますよ。うちの店で使うお米もすべて県内産を使用しています。他府県のブランド米と比較しても、やっぱりおいしいんですよ。
最後にひとこと。
職業先生の授業では、職人たち5名ほど連れて行きます。体験授業で寿司の巻き方を教えるのですが、中学生の皆さんは細巻きひとつ巻いただけで「すごい」と喜んでくれるんです。これは自分たちが日頃仕事をする中では味わえない体験で、職業先生をやるスタッフも自分の仕事の価値を改めて見直す良いきっかけになっています。未来スクールの活動は、このように企業にも子どもたちにも、ひいては地域にもメリットがある。少なくとも地方に本社を置いてやっていこうという前向きな企業さんが未来スクールに寄付協賛しないとすれば「金額の大小なんて関係ない。サポートするかしないかです」とお伝えしたいですね。