地域の大人が先生になる。ナナメの関係が最大の魅力
有限会社ナルデンは和歌山市にある地域に密着した家電販売店。代表取締役の成瀬裕之社長は、3人のお子さんを持つ「お父さん」でもあり、10年以上もの長い期間にわたってPTAの役員や会長を務められ、現在和歌山県PTA連合会副会長も務められています。成瀬さんご自身のお子さんが通っていた中学校で2022年から未来スクールがスタートしましたが、その際どのような働きかけをおこなったのか。詳しくお話を伺いました。
未来スクールとの関わりを教えてください。
未来スクールを知ったのは、代表の山本理恵さんをはじめ事務局のメンバーの方と旧知の仲だったことがきっかけです。未来スクールを開催する学校が増えてきた2021年に、「職業先生をやりませんか」と声をかけていただいたので、まずは職業先生をやってみることにしました。
未来スクールのどのような点に一番共感しますか?
他府県に本社があって全国展開しているような大企業ではなく、僕らのように地域に根ざした地元の中小規模の企業人が「職業先生」をしている点です。「地元にはこんな大人がいて、こんなに頑張ってる」というリアルな姿を伝えることができます。僕自身の話ですが、有限会社ナルデンは父の代から街の電器屋でした。家では偉そうにしている父がお客さんの前では頭を下げてる様子が、ペコペコしているように感じて思春期の頃の僕にとっては嫌だったんです。当時の僕がもし親に仕事の大切さを説かれたとしても、聞いていたかどうかわかりません。でもそれが親でも先生でもなく、別の大人だったら思春期の子どもたちも「話を聞いてみようかな」という気持ちになる。それが未来スクールが提唱してる「ナナメの関係」です。「職業先生」のお話をいただいた時も、「仕事ってお金を稼ぐためだけじゃないよ」と伝えることができるならぜひやりたいなと思いました。
お子さんが通われている学校で未来スクールを開校するようになった経緯を教えてください。
そこはとてもありがたかったです。ですが、未来スクールは無償のプログラムではなく、受講費がかかります。それをどう捻出するか検討が必要でした。たまたま西浜中学校ではPTAの予算の中に「バザー会費」という積立金がありました。もともとは、PTAが主催してバザーを行い、その収益を部活の遠征時に使っていました。初回の未来スクールはこのお金を受講費に充当することにしました。PTA会費は本来、学校全体の生徒の益になるために使われるものですので、未来スクールを次年度以降も継続しないといけません。そのために毎年のPTA本会計の中に未来スクールの予算を計上して、継続的に実施できるようにしました。
未来スクール開催後、どのような反響がありましたか?
先生からは「単に学力アップというよりは、将来を見据えて今何を頑張らないといけないか、生徒たちが自主的に意識するようになった」と聞きます。他にも「親の仕事が気になり出したと」いう声も聞きます。親って子どもたちにとっては「働いて、家に帰ってくる」ぐらいしか意識していない。でもその間に親は家族のために仕事をしてるんですよね。未来スクールで学ぶことで、親の仕事に対して意識を向けるようになるのはとても大きいです。感謝につながるだろうし、ひょっとしたら事業承継につながるかもしれない。未来スクールをもし僕自身が中学生の頃に受けていたら、父親に対して抱く思いも、違ったものになっていたかもしれませんね。
「地域の方が子どもたちに教える」というモデルが広がると、和歌山にとっても良い影響がありそうですね。
校長先生と「究極の理想の形は西浜中の<職業先生>が全員西浜エリアから来てくれることだよね」と話したことがあります。自分たちの暮らす地域で子どもたちが大切にされて、そして子どもたちも地域を大切に思うことで自己肯定感は上がっていくと思います。今後は未来スクールがもっと広まっていくと思いますので、職業先生ももっと必要になります。そこで西浜地区で他に先生やってくれる人を声がけして集めようと思っています。
和歌山市内や県内など、他の地域での開催も広まるといいですね。
和歌山市では中学校のPTA会長らが集まって年に3、4回連合会を開催します。その時に未来スクールのことをご説明させていただいたところ、他の中学校でも開催したいという声があがりました。学校の中で子どもたちが「仕事の意味」に触れる授業は少ないです。「未来スクール」をもっともっと多くの生徒たちに届けていきたいと思います。