未来スクールでは中学生に対して授業を行う講師を「職業先生」と呼んでいます。職業先生は有志で参加してくださる地域の多様な職種の社会人の方々。みなさんそれぞれ、社会人としての経験や様々なスキルを持っていますが、中学生のために授業をするというのは初めての試みの方がほとんどです。
そこで未来スクールでは、職業先生に対して授業づくりオリエンテーションを開催し、授業で伝える要点をまとめた「仕事の掘り起こしシート」を作成してもらいます。その後、このシートをもとに一人ひとり、キャリア教育コーディネーターと一緒に授業の構成を練る打ち合わせを行います。この打ち合わせの内容をふまえて、職業先生は授業で使う「授業プログラムシート」(パワーポイント)を作成します。
そして実際の授業の前には、この「授業プログラムシート」を使いながら、他の職業先を前にして本番さながらの授業を行う「合同授業練習会」(模擬授業)を行います。今日は2025年度の「合同授業練習会」の様子をお届けします。
さまざまな職種に就く職業先生が集結
はじめに、未来スクール代表の山本理恵より全体の説明と注意事項が伝えられました。
山本:今日の時間は、生徒たちの”心に火をつける授業”を届けるための大切な準備の場です。未来スクールでは生徒に向けた授業の講話部分は15分で行っていただきます。先日中学1年生に対して未来スクールを開催した際には、スライドを見ながら授業を受けることに慣れていない生徒さんの姿も見受けられましたので、授業は余裕を持って、ゆっくりと進めてください。また模擬授業を聞く側の皆さんは、発表の後に良かった点や改善点を1分ほどでフィードバックしてください。
模擬授業スタート!
さて、いよいよ模擬授業のスタートです。参加者は4つのグループに別れて1人ずつ模擬授業を行っていきます。まずは自己紹介と未来スクールの授業で大切にしたいことを1人ずつ発表するアイスブレイクから始まりました。

「初めまして」という挨拶があちこちから聞こえてきます。職業先生は自らの意思で参加する方が多く、みなさんすぐに打ち解けて和やかなムードが広がりました。
ここで職業先生が準備した「授業プログラムシート」の内容を簡単にご紹介しましょう。
「授業プログラムシート」は自己紹介、各自が所属する会社についての説明、職種について「自分がなぜその職種を選んだのか」から始まり、「これまで頑張ってきたこと」「自分にとって働くこととはどういうことか」といった職業観までを網羅するものです。1人の職業先生が受け持つ講話の授業時間は全部で15分。この短い時間で、職業先生自身についてと働くことを通して培ってきた人生観までをぎゅっと凝縮して伝えます。
また、この授業を聞く側のチェックポイントは、生徒の心をつかむ工夫があったかどうかや、会社の全体像、その中でどのような仕事をしていることがわかったか。そしてその仕事のかっこよさや専門性が感じられたかどうか、働くことを通して職業観が伝わったかどうか、など様々あります。

皆さん和気藹々と和やかに授業を発表されていますが「中学生にはこの言葉が難しいかも」「導入にクイズを入れたところはすごくおもしろくてよかった」など、率直に感想を伝え合い、授業をどんどんブラッシュアップしていきます。

自分の仕事への想いを伝えるにあたって「どんななら中学生に届くだろう」と真剣に考える中で、改めて自分自身の仕事の意義を見つめ直している方も多く見られました。
実際に参加した職業先生に感想を伺いました。

まずはセイカ株式会社研究部の谷口寿英さんです。セイカ株式会社はポリイミド・エポキシ・ウレタン原料といった化学物質の研究開発・製造をする会社。谷口さんは研究者として勤務されています。
谷口:今年で2回目の参加です。去年初めて職業先生をさせてもらった時に、中学生の皆さんから「仕事のどんなところがおもしろいですか?」「その仕事は何のためになるんですか?」など率直な質問をたくさんもらいました。そのことで仕事に対する初心を私自身がもう一度振り返ることができました。教えに行く立場でしたが、逆に生徒さんから教えてもらったことがとても多いなと感じて、今年も職業先生として参加させてもらっています。

続いて、初めて職業先生として参加する株式会社ヤマシンのプレカット事業部の山田武志さんです。株式会社ヤマシンのプレカット事業部では木材住宅の柱や梁を加工しています。山田さんはプレカット事業部で部全体の統括補佐をされています。
山田:これまで高校生に向けた授業は経験がありますが、中学生は初めてです。授業に使う資料の中で「失敗ができない現場」と書いていたのですが、受け取る生徒によっては少しきつい印象を与えるかもしれないという指摘があり、表現を改めることにしました。「これだったら通じるだろう」とこちらが思う言葉でも、このように指摘をいただいて見直すことができました。授業をよりわかりやすく伝えるために、今の中学生たちがよく見る動画を駆使して、本番の授業を行おうと思います。
このように未来スクールでは中学生一人ひとりの心にしっかりと届くような授業づくりを心がけています。2025年度の職業先生の授業は和歌山市立中学校6校で開講予定です。全体で156教室のプログラムを展開し、受講予定の生徒数は1,211名。職業先生企業は総勢44社、サポートスタッフは延べ140名を予定しています。和歌山という同じ地域に暮らす一人ひとりの生徒の未来を思いながら、地域の大人が届ける熱量に溢れた授業。中学生の心にまかれた種子は、10年後、20年後、どんな花を咲かせるでしょうか。