「やりたい」と思えれば、スタートはいつからでも切れる。
未来スクール発足時から職業先生として授業を届けて下さっている中谷匡登先生。中谷先生は、伏虎リハビリテーション病院の院長でありながら、カンボジアの子どもたちに外科治療を無償で実施。また日本体育協会の公認スポーツドクターとして、パラリンピックなどをはじめとする競技会で医事運営のサポートを行なうなど、多岐にわたって活躍されています。
未来スクールで職業先生をはじめたきっかけを教えてください。
ちょうど未来スクールが立ち上がった頃、僕も父の代から続いている病院を継いだばかりで「古い組織を変えていかないといけない」というタイミングでした。自分自身が新しい何かを模索していた時に、同じように何かを変えていこうという人たちと出会って「おもしろそうやね、やろう」と盛り上がって職業先生をやってみることにしました。
未来スクールでどのような授業を行っておられますか。
未来スクールの授業は50分1コマの中で講話と職業体験の2部構成になっています。講話からスタートするのですが、僕はまず「これから緊急手術を始めるので、手伝ってください」と言って人口皮膚を使って外科手術の縫合の手技を見てもらいます。手術では医師が傷口を縫っていくのですが、手術を円滑に進めるために「前立ち」と言って研修医に縫った後の糸を結んでもらいます。体験では中学生のみなさんにこの糸結び体験をしてもらいます。「この糸結びをマスターしてもらいますよ。でもその前に少し授業をいいですか」と言って授業をスタートします。
生徒たちの反応はどうですか?
「手術の糸結び」と聞くと、みんな「えー!」と言いますね(笑)。糸結びは僕らが研修医時代にめちゃくちゃ練習する手技のひとつです。見ているだけではなかなかできないので、僕とアシスタントが時には生徒の手をとってやり方を教えます。手を動かし始めると10分ぐらいで数人ができてくるようになります。するとできた子が別の子を教え始める「連鎖」が始まります。中にはずっと編み続ける子もいるし、家に帰ってお家の方に「今日はこんなことをやった」と伝えてくれる子もいるそうです。
講話ではどのようなことを大切に伝えていますか?
僕自身は医者の家に生まれながら、敷かれたレールを歩むのが嫌で、医療系の全寮制の高校に入ったものの大学受験は失敗。1年浪人しています。その時ちょうど阪神大震災が起きて、友達が神戸に住んでいたこともあり「何かしたい」と思ったのですが、無資格で、結局何もできなかったんですね。その時初めて「何者でもない自分に何か意味を持たせたい」と思って、そこから猛勉強をして医者になりました。だから授業では「自分は勉強もできなかったし、夢を追いかけるのも遅かった。でも自分が心から「医者になりたい」と思ったからなれたんです。そのスイッチさえあれば、何歳でも始めるのに遅いことはない。本気になればいつからでもできるし、本気でやったことは自分に返ってくるよ」と伝えています。それに、できない理由を考えるよりどうしたらできるかを考えた方が楽しい。やれば間に合うことはいっぱいあるし、あきらめる必要はないんですよ。
職業先生の活動を通して、ご自身がプラスになる発見や気づきはありましたか?
一番良かったのは病院のスタッフが「うちの院長は中学生に仕事の内容を伝える活動をしている」と外部に発信することで、外部から評価をいただいたことです。またスタッフも、自分たちの仕事が地域にどれだけ求められているかを知るきっかけになったり、「子どもたちが憧れるような仕事なんだな」と再認識できて、仕事に対してより誇りを持つことができるようになったと思います。
最後にひとこと。
中学生の皆さんに伝えたいことは、和歌山に住んで働いていても仕事を通じて世界と繋がっていけるということ。今の時代は、必ずしも東京に行かないとできないことは少ないと思います。僕は和歌山で楽しく働いて生きている、こんな大人がいるんだよという姿を自慢したいと思います。