未来スクールができるまで(前編)
未来スクール代表を務める山本理恵さんは、和歌山市にある学校法人山本学園IBW美容専門学校にて副理事長をされています。美容の職業教育に携わる中でなぜ未来スクールを立ち上げようと思ったのか。その思いを前後編でお届けします。
未来スクールで職業先生をはじめたきっかけを教えてください。
私は大学で栄養学や色彩学を学んだ後にIBW美容専門学校に入りました。美容栄養学やカラーコーディネートの授業を担当するともに、学校の広報や生徒獲得活動に取り組むようになりました。今から20年ほど前のことです。当時から高校卒業後の若者たちの県外流出が和歌山を含め地方の社会課題であり、美容をめざす若者においても大阪や東京など大都市の美容学校への進学が多く見られました。そして本校も生徒数が減少傾向にあっため、県内と大阪府南部の高校に直接出向いて学校案内を行い、パンフレットやホームページを充実させて本校のことを一人でも多くの方に知っていただこうと懸命でした。
また当時は入学者の減少という問題と併せて、退学者も多いという問題がありました。多い年度では入学者の20%以上が退学することもあり、その問題に対しての具体策を持ち合わせていませんでした。そこで入学頂いた学生を美容師へと育てる責任という教育的課題、そして経営的課題としてこの問題を重く捉え、解決するためのプログラムづくりに着手しました。その中で有効だったのが一人ひとりの学生に教職員がていねいに向き合うサポート。そして就職後の少し先の自分の将来を体感できる内容を含んだキャリア教育プログラムでした。
実践されたキャリア教育プログラムとはどのような内容だったのでしょうか。
このキャリア教育の授業は、学生のやる気を引き出すことを目的とし、当時若者の生きがいや社会参加意欲を高める取り組みを行っていたNPO法人D×P(代表:今井紀明氏)と一緒にプログラムづくりを行いました。具体的には20・30代の美容界で既に活躍中の先輩達に学校に来てもらい、今どんな仕事をしているのか、どんな風にキャリアを積んでいるのかなど解りやすくトークと技術で伝えてもらう時間を設けるというものです。学ぶ先の目標を見失うと、学生は学習や実技実習への意欲だけでなく登校すらしたくなくなります。
このキャリア教育プログラムを開始した年度は特に学習意欲の問題を抱えた学生が多かったのですが、先輩たちが卒業後にどのような仕事を任せられ、それぞれの職場でどのように活躍しているかを直接聞くことによって、問題があった学生たちが劇的に変わったんです。
なかなかやんちゃな女子学生がいたのですが、彼女が授業の最後に「明日からがんばる」と大きな字でノートに書いていたのは今でも忘れられません。そしてその言葉の通り授業に真剣に取り組むようになり、その後は見事に国家試験も合格。就職後もキャリアを重ね、今では出産育休を経ても継続して美容師として活躍しています。彼女の入学時には中学校の恩師などからも相当心配されていたのですが、なんと今度自身の母校から職業教育の関連で講演を依頼されたそうです。中学時代からの良い変化を喜んだ恩師が声をかけてくださったそうです。
少し上の先輩の働く様子を聞いて、自分の将来のイメージが湧いたんですね。
目標モデルを見つけることは、そんなに学生たちの心を動かすんだなと思って感動しました。
また、この時期に本校では、3つの100%(卒業率100%、国家試験合格率100%、希望する進路への就職率100%)を教職員・学生共通の目標として設定しました。この高い目標設定により、取りこぼさないための様々な取り組みが教職員から提案、実行されるようになり校内の雰囲気も大きく変わっていきました。そして取り組みだして6年後の2017年には、初めて退学者0名、入学した全員の卒業を達成することができました。
そこからどのように未来スクールに繋がっていくのでしょうか。
今では、IBWでは先ほどの3つの100%は当たり前になっています。このように、未来スクールで「ナナメの関係」と呼んでいる保護者や先生、友達以外の関係の第三の大人との出会いと学びによって、学生たちの意欲が引き出され、生き方も変え、学校全体が良くなるという確信をしました。と同時に、こういったキャリア教育を本校の美容をめざす18、19歳の学生だけでなく、もっと早い時期に和歌山の子どもたちに届けたいと思ったことが、未来スクールのきっかけです。
それが未来スクールのきっかけなんですね。未来スクールでは中学生を対象に授業をされているのはどうしてですか。
高校生では将来に対する価値観はほぼ定まってきます。また年齢が上がるごとに自己肯定感は下がっていくという傾向もあります。それであれば、もう少し若年層の小学生では早過ぎます、多感な時期である中学生に対して、将来のことをもっと意欲を持って考えることができる機会授業を届けるのはどうだろうと考えるようになりました。
どのように未来スクールの1回目が生まれたのでしょうか。
私は商工会議所青年部の会員でもあるのですが、未来スクールの構想を青年部の仲間皆さんに相談したら「福井と沖縄で、地域の子どもたちに若手経営者たちが、自分たちがどんな仕事をしているか伝える取り組みがあるよ」と教えていただきました。早速福井と沖縄に視察に行ってお話を伺いました。「こういうことを和歌山でも実現したい」と思い、賛同してくれる若手企業経営者仲間たち数名で「和歌山県キャリア教育推進を考える会」を発足しました。
翌年にはキャリア教育の先進県である沖縄と福井からキャリア教育コーディネーターとして活躍する若手企業経営者を招き、和歌山からは若手企業経営者や和歌山市PTA会長も交えて「これからの和歌山県におけるキャリア教育を考える円卓会議」という円卓会議を開催し、皆さんで熱心な議論が交わされたのを今でも鮮明に覚えています。そこから「未来スクール実行委員会」を発足し、実施に向けての企画などを本格的に始め、そして2014年に、和歌山県専修学校各種学校協会が主催となり、和歌山市立伏虎中学校(現 伏虎義務教育学校)との連携により、年に1日だけ実施のイベント型未来スクールを開催することになりました。
(後編に続く)