未来スクールができるまで(後編)
未来スクール代表を務める山本理恵さんは、和歌山市にある学校法人山本学園IBW美容専門学校にて副理事長をされています。美容の職業教育に携わる中でなぜ未来スクールを立ち上げようと思ったのか。後編では未来スクール誕生から現在に至るまでをお届けします。
(前編はこちらから)
第1回未来スクール開催時の様子を詳しく教えてください。
当時の和歌山市教育長に福井や沖縄で見たキャリア教育イベントの事例をお話しして、「こういった取り組みを和歌山でも開催したいです」とご相談に上がったところ「どんな場所で開催したいですか?」と聞いて下さいました。「可能であれば中学校で開催したいです」とお伝えしたところ※和歌山市立伏虎中学校(現 伏虎義務教育学校)をお借りできることになりました。
当時の伏虎中学校校長先生は、「校舎を貸すだけでなく私も一緒に協力させてください」と言ってくださり、中学校との連携も生まれました。校長先生は、第2回目、3回目と毎年、一緒に取り組んでいただき、「校長先生の仕事について」という職業先生もしてくださいました。
未来スクールは実行委員会形式で始まったのですが、皆さんも未来スクールに対してとても前向きで、仕事が終わってから夜な夜な運営の会議をしたり、今でも未来スクールが一番大切にしている部分である、職業先生のための「授業練習会・模擬授業」もお互いに改善点を出し合い、ブラッシュアップをし、何度も納得がいくまで本番まで繰り返し行ってくださいました。チラシを配ったり、校長会や番組にP Rに出たり、広報活動もみんなで行いました。
当初は1日で完結するイベント形式だったのですね。
そうです。でもこのイベント開催の準備をしている最中に「これをうちの学校でもやってほしい」という声が早速上がり、和歌山市立紀之川中学校で2年生の生徒さんたちに向けて職場体験前授業「働くとは?仕事とは?」を開催させていただくことになりました。これをきっかけに和歌山市内の中学校からご依頼をいただいて、1年に1校ずつ学校授業型未来スクールを実施していくことになりました。
学校を貸し切って行う1回のイベントはどのぐらいの規模で実施されていましたか?
大体1回につき300人ほどの小学生から中学生までのお子さんが参加していました。職業先生企業は約25社、運営スタッフは約50人ほどです。おかげさまでイベント型の未来スクールは回を重ねるほどに人気になりまして、2017年の最終年には450人の参加がありました。応募開始から10分で申し込みが定員に達するほどに話題のイベントとなりました。
現在のように中学校の総合学習授業で行う未来スクールのように変化した一番の理由は何でしょうか。
イベント型の開催では一過性であること、また、未来スクールは伏虎中学校をお借りした形でしたが、開催の場所が和歌山市内の中心地であるため、少し離れた地域のお子さんは参加が難しかったこと。またそもそも本来届けたいと思っていた中学生は部活で忙しくて日曜日開催のイベントではなかなか参加できず、多くの参加者は小学生のお子さんだったこと。こうした理由でイベント型の未来スクールは2017年で終了して、ご依頼をいただいた中学校に出向いて授業をするというスタイルに変更をしていきました。今では、和歌山市立中学校の総合学習授業の一環として、事前・事後学習も含めた体系的な「探究型キャリア教育プログラム」として取り組まれています。
生徒からは、どのような声が上がりますか。
「お金を稼ぐためだけに働いていると思っていたけど、みんな人のため、地域のために働いていることがわかった。少し大人になるのが楽しみになった」、「将来について考えるきっかけになりました。本当に楽しかったのでもっと色んな授業を受けたいと思いました」など。他にも「和歌山にこんなすごい会社があるって知らなかった」、「今から色々なことに挑戦して、将来の選択肢が増えるように勉強も頑張ろうと思った」といった声が上がっています。
保護者の方からはどのような声が上がりますか。
中学生になると保護者との間での会話も減るようですが、「将来のことを考えるきっかけを得たことで、親子間での新しい会話のテーマが生まれた」、「親自身が様々な業種や和歌山の企業についてそこまで知らないので、自分たちが伝えられない社会のことを授業として実施してくれるのはありがたい」という声、また「未来スクールを受けて子どもから私の仕事について興味を持って質問してくるようになった」という声が上がりました。
未来スクールの今後の目標を教えてください。
未来スクールはすべての子どもたちが自分らしく未来を切り拓く社会をめざして活動をしています。そのため、まず義務教育課程の中学生に対してアプローチをしているのですが、和歌山市内の全公立中学校18校での開催を目標としています。
子どもたちは、いつかは学校を離れ、地域社会の一員として自立して生きます。
「自分はこれから先、どんな生き方だってできるし、未来は色々な可能性に満ちている」と子どもたちが感じられるように。これからも、多様な職種で働く地域の大人たちとの出会いと学びをきっかけに、子どもたちが将来に向けて主体的な一歩を踏み出せる未来スクールを、多くの学校へ届けられるように地域の志を共にする皆さまとの連携、協働を強くし、進めていきます。
そしてこの学びの先には、「自分の地元・和歌山で働く」ことも将来の選択肢のひとつになっていくと信じています。「未来スクールを受けて、地元和歌山で働こうと思った」、「未来スクールで受講した企業の話を聞いて、この会社で働きたいと思った」など未来スクールを受講したことがきっかけでいう声が現実になっていくことも夢ですね。
未来スクールは、地域の企業様と一緒につくる新しいかたちの教育ですね。
その通りです。子どもたちを育むことは学校教育や家庭教育だけでは完結できません。多様な職業とそこで働く人の「生き方」に直接触れることが、子どもたちの一歩踏み出すきっかけとなります。また、未来スクールで授業を届けてくださっている企業の皆さまは「最初は子どもたちのためと思って参加したけれど、授業をしてみて、改めて自分の仕事の意義を考えさせられて、自分が気づき学ぶことがたくさんあった」と言われます。
未来スクールは、関わり合うことで子どもも企業も学校の先生もみんながプラスになっていく関係です。未来を担う子どもたちを社会全体で育てていくということは、私たち企業の成長、そしてひいては街の発展につながっていきます。
「和歌山だからこそ必要な教育がある。私達だからこそできる教育がある」
という想いに共有いただいた企業の皆さま、まちの皆さまからのご寄付で未来スクールは支えられています。実践的で個人にも社会にも将来性のある新しい教育はを自分たちでつくろうという共感が広がり、2024年度は70社以上の企業と個人の皆さまから応援を頂いています。